学校リスクマネジメント推進機構の鈴木彰典です。私は過去に校長経験が13年あり、マスコミが注目していた教育困難校の立て直しを任されてきた経歴もございます。このような学校では報道される内容と実情が全く異なることもあるのですが、様々な経験が今の学校現場の支援に活かされていると感じております。さて、各学校(園)では、始業式や入学(園)式を終えて、新年度の教育(保育)活動が順調に開始されたことと思います。
各学校(園)の教職員が一丸となって、高みを目指して取り組まれることを願っております。
今号では、新年度の開始にあたり、学校(園)で起きるトラブルの未然防止を図るために、どのようなことに留意したら良いのかをお伝えしたいと思います。
◆ズレの解消に努める
価値観の多様化、情報化の推進、国際化の進展などにより、児童生徒等を取り巻く環境は急速に変化しております。
また、働き方改革に伴い、学校(園)がこれまで大切にしてきた文化の継承と長時間勤務につながる要因の削減などの新たな取組が求められています。
すなわち、どのようにして不易と流行のバランスを保つのかが問われております。
学校(園)は、児童生徒等、保護者、地域住民、関係機関など様々な方々が関わります。
考えや価値観などは、それぞれの置かれた環境や役割によって変わります。
教職員も世代や育った環境などによって、考え方は異なります。
違いがあって当然なのですが、その違いがズレを生み、トラブルに発展してしまうこともあります。
予め、リスクを想定して、トラブルの未然防止に努めることが必要になります。
そのためには、教職員間であれば、校(園)長先生の経営方針を踏まえて、共通理解を深め、一枚岩になって取り組むことにより、ズレの解消に努めることができると思います。
保護者と教職員であれば、コミュニケーションを強化しながら相互理解を深め、学校と家庭が子どもをより良い方向に育てるという共通認識を持つことにより、ズレの解消に努めることができると思います。
報告・連絡・相談・確認を怠らず、ズレの解消に努め、トラブルの未然防止につなげていただければと思います。
◆リスクの明確化を図る
学校(園)現場には多岐にわたってリスクが存在しています。
普段、何気なく感じているだけでは、トラブルが起きていることに気がつかないことがあるかもしれません。
特に、管理職や各分掌の責任者の方は、日頃から、どのようなリスクがあるのかを意識することが必要です。
以下のことを参考にして意識を高めていただきたいと思います。
【児童生徒等に好ましくない影響を及ぼす事態】
①学習活動等
□運動時、実習・実験時、校外活動中の事故
□宿泊行事、現場学習等での事故
□部活動中の事故
□学校施設等利用中の事故
②交通事故
□登下校中の交通事故
□校外活動中の交通事故
③健康
□感染症(集団感染)
□食事(食物アレルギー・集団食中毒)
□熱中症(登下校・授業・部活動・課外活動)
④人権
□人権侵害(差別事象)
⑤問題行動等
□暴力行為(児童生徒間暴力、対教師暴力等)
□いじめ(不登校、いじめに起因する傷害・自殺)
□授業妨害(授業の不成立)
□その他の問題行動(飲酒、喫煙、薬物、SNS等)
⑥犯罪
□不審者(不審者による殺傷、連れ去り)
□テロ・有事等(爆破予告)
□放火(放火による建物の延焼)
□盗難(備品、個人の所有物)
□施設・設備(落書き、損傷)
⑦災害
□地震(建物の倒壊による死傷)
【学校の信頼を損なう事態】
①教職員
□不祥事(飲酒運転、体罰、セクハラ、犯罪行為等)
□健康管理(心身の不調による業務への影響)
□事故(交通事故等)
②教育計画
□教育課程(未履修)
□施設設備(施設の保守管理、修繕の不備等に起因する死傷事故)
③財務
□資金管理(公金の遺失)
□会計処理(不適正な公金支出、教材費・部費等の不適切な執行)
□運用(失敗による損失の発生)
□研究費(横領、不正利用)
④情報
□個人情報(個人情報の漏洩)
□情報システム(システムダウンによる影響、ウイルスによる影響)
□風評被害(インターネットでの誹謗中傷による影響)
⑤業務執行
□保護者(保護者に対する不適切な対応による信用失墜)
□広報・報道(マスコミに対する不適切な対応による信用失墜)
⑥評判
□選択制(選ばれない学校としての信用力低下)
◆危機管理マニュアルの確認と修正を行う
各学校(園)では、前年度の評価を踏まえて、修正した危機管理マニュアルを作成していることと思いますが、一年間を通じて、様々なトラブル(いじめ、ケガ、食物アレルギー、自然災害等)が起きた際に、危機管理マニュアルを踏まえて対応を行ったかどうかの確認が必要です。
その際に、これまで予期しなかったことが起きた場合には、きちんと記録に残して次年度の作成につなげたり、すぐに実行した方が良い場合には修正して対応できるようにすると良いと思います。
危機管理マニュアルを作成して安心するのではなく、現実に即した内容になっているのかを常に確認する必要があります。
管理職が各分掌の責任者に危機管理マニュアルの活用の有無や修正点への対応などを確認し、危機の発生頻度を下げたり、危機発生後の影響度を軽くするようにしていただきたいと思います。
不十分であれば、校内研修等を行い、危機管理に対する意識を高めることを適宜行うことが必要になる場合もあります。
今年度一年間、各学校(園)が未然防止に日頃から取り組み、トラブル対応を上手に乗り越えていただきたいと思っています。
※この記事は当機構が制作・発行している「学校リスクマネジメント通信」をWEB版として編集したものです。編集者 元公立小学校・中学校 校長 鈴木彰典